Sales is not what stays
「売れている」と「儲かっている」は、同じ顔をしていない
売上ランキングを開くと、いちばん上に並んでいる商品が、いかにも店を支えているように見えます。数がよく出ていて、レジでもよく通る。つい「これが稼ぎ頭だ」と思ってしまうのは、ごく自然なことです。
けれど月末に帳簿を並べてみると、思ったほど利益が残っていない、という感覚がついてまわります。よく売れているはずなのに、手元には残らない。小売でも、飲食でも、製造でも、いくつかの商品を並べて売っている現場なら、どこかで覚えのある引っかかりではないでしょうか。
もとをたどると、売上と利益は別の物差しです。売上は「入ってくるお金」で、利益は「残るお金」。よく似た顔をして隣に並んでいますが、同じ大きさとはかぎりません。まずは、この二つが別物だという前提だけを、そっと置いておきます。
Loading the overhead
利益は、間接費を載せてはじめて見える
商品ごとの利益は、売上からその商品の仕入れや材料を引いただけでは出てきません。それで出るのは、いわば手前の利益です。お店にはもう一つ、家賃・人件費・光熱費のような、どの商品にも直接ひもづかない費用があります。これを間接費と呼びます。
間接費は店全体でまとめてかかるので、そのままでは「どの商品のぶん」と言えません。そこで、何らかの基準で各商品へ割り振って、はじめて一品ずつの本当の利益が見えてきます。手前の利益から、割り振った間接費を引いたものが、その商品が残したお金です。
この「割り振り」は、特別な作業ではありません。ルームシェアの家賃を、広い部屋の人ほど多めに払うか、それとも人数で等分するか——決め方しだいで、一人ひとりの負担は変わります。お店の家賃や人件費も同じで、どの商品にどれだけ持たせるかは、何を基準に分けるか次第で動きます。
要するに、売上の大きさと利益の大きさは別物で、間接費の載せ方しだいで、主役は入れ替わります。
気をつけたいのは、その分け方が一つに決まっていないことです。売上の大きさで配るのか、手間のかかり方で配るのか、占有する場所の広さで配るのか。どれももっともらしく、どれを選ぶかで、各商品が背負う間接費は変わります。同じ商品が、ある分け方では黒字に、別の分け方では赤字に見える——言葉で先に置いておくと、次の実演がそのまま腑に落ちます。
Touch the split
触れる:家賃や人件費の分け方を変える
商品4品の売上と直接費(仕入れ・材料)は固定の架空例です。上のボタンで「家賃や人件費を何で分けるか」を切り替え、スライダーで「間接費の総額」を動かすと、商品ごとの利益が、その場で横棒と数字で動きます。中央の線より右に伸びれば黒字、左へ沈めば赤字です。
商品別・間接費を載せたあとの利益
売上と直接費は固定。分け方(ボタン)と間接費の総額(スライダー)だけを動かしています。同じ4品なのに、分け方しだいで、違う商品が赤に沈みます。
黒字の棒は中央より右へ、
赤字の棒は中央より左へ伸びます。分け方を変えても4品の合計は変わらず、変わるのは「誰が間接費を多く背負うか」だけです。だから一つの商品が赤に沈むぶん、別の商品が黒字を厚くします。
前提:売上(A 80万・B 50万・C 35万・D 20万)/直接費(A 60万・B 25万・C 20万・D 8万)とした架空例です。
| 商品 | 売上で分ける | 手間で分ける | 場所で分ける |
|---|---|---|---|
| 商品A(売れ筋) | −16,216 円 | 12,500 円 | 25,000 円 |
| 商品B(高単価) | 114,865 円 | 171,875 円 | 175,000 円 |
| 商品C(定番) | 55,405 円 | 19,792 円 | 50,000 円 |
| 商品D(小物) | 65,946 円 | 15,833 円 | −30,000 円 |
売上で分けると、いちばん売れている商品Aが赤字に沈みます。場所で分けると、今度は場所を取る商品Dが赤に転じます。どの列も合計は同じ 22万円で、入れ替わっているのは赤字を背負う相手のほうです。
What stays, not what sells
「どれが売れたか」でなく「どれが残したか」で見る
売上ランキングだけを眺めているうちは、商品の「売れ方」しか映りません。上位にいる商品は頼もしく見えて、まさかそれが利益を食っているとは思いにくいものです。けれど間接費を載せて見直すと、稼ぎ頭に見えていた商品が、いちばん利益を削っていた——ということが起こります。
「どれが売れたか」だけでなく「どれが残したか」で棚をもう一度見渡すと、値付けや、力の入れどころが、少し違って見えてきます。減らすべきなのか、値段を見直すのか、それとも背負っている間接費の割り振り自体を疑うのか。答えは現場ごとに違いますが、入口は「残ったお金で見る」という、ひとつの向き直りです。