The Invisible Bill
浮いた人件費は見える。逃げた売上は、見えない
混む時間に、人を一人減らすとします。浮く人件費は、はっきりした金額です。月末には給与明細や請求書になって、目に見えます。だから、節約した手応えがあります。
いっぽうで、混みすぎて待たされた客は、何も言わずに店を出ます。行列を見て、入らずに引き返します。その客が落とすはずだった売上は、どこにも記録されません。請求書も来ません。だから、見えません。
こうして、見える人件費を浮かせて、見えない売上を失う——ということが、混む時間に静かに起きます。数えられる金額だけで決めると、答えはいつも「減らすほど身軽」に傾きます。逃げた売上が、天秤の片側に載っていないからです。
Touch — Weigh Both Sides
触れる:人件費と、逃げた売上を、天秤にのせる
ある店の、混む一時間です。来たい客は40人。店員一人が一時間に10人をさばけて、さばけなかった客は待ち切れず帰る(=逃げた売上)とします。客一人の儲け(粗利)は600円、店員一人は一時間1,500円。
人数を動かすと、天秤の左に「人を減らして浮く人件費」、右に「逃げた売上」が載ります。減らすほど左は軽く浮きますが、右の見えない皿は、その何倍も重くなります。両方が釣り合う人数を、探してみてください。
混む一時間に、人を何人置くか(架空例)
来たい客40人。店員一人が一時間に10人さばけ、さばけない客は帰ります(=逃げた売上)。客一人の儲け600円、店員一人1,500円/時。人数を動かすと、浮く人件費と逃げた売上が、天秤で釣り合っていきます。
人数と、人件費・売上・利益(架空例・混む一時間)
| 混む時間の人数 | 1人 | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | 6人 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| さばけた客 | 10 | 20 | 30 | 40 | 40 | 40 |
| 売上(粗利) | 6,000 | 12,000 | 18,000 | 24,000 | 24,000 | 24,000 |
| 人件費 | 1,500 | 3,000 | 4,500 | 6,000 | 7,500 | 9,000 |
| 逃げた売上 | 18,000 | 12,000 | 6,000 | 0 | 0 | 0 |
| 利益 | 4,500 | 9,000 | 13,500 | 18,000 | 16,500 | 15,000 |
人件費がいちばん小さいのは1人(1,500円)ですが、そのとき利益は最低(4,500円)です。逃げた売上が0になる4人で、利益は最大(18,000円)。人件費を最小にする人数と、利益を最大にする人数は、別ものです。
全員さばける4人までは、人を一人減らして浮く人件費の、ちょうど4倍の売上が逃げています。だから、両方を天秤にのせると、針が水平になるのは「これくらいでいい」と感じる人数より、一人か二人、多いところです。そこが、利益の頂点です。
Why We Cut Too Deep
なぜ、つい削りすぎるのか
理由は単純です。浮いた人件費には請求書が来て、逃げた売上には来ないからです。片方の皿だけを見て決めると、判断は「人を減らすほど身軽になる」へ静かに傾きます。浮かせた金額は手元に残り、去った客はどこにも残らないからです。
けれど、逃げた売上を反対の皿にのせた瞬間、答えは裏返ります。混む時間は、人件費がかさむ時間であると同時に、その人件費を上回る売上が立つ時間でもある——そう見えてくるからです。見えない費用を一つ加えるだけで、「削る」と「足す」のどちらが得かが、入れ替わります。
Staff the Rush
混む時間の人手は、費用ではなく投資
空いている時間の一人は、たしかに費用です。やることが少ないのに、賃金だけがかかります。けれど、混む時間の一人は違います。去りかけた客を引き止めて、消えるはずだった売上を立てる——取りこぼしを止める投資です。
同じ一人でも、置く時間で意味がまるで変わります。だから「いつも一人足りない気がするから、まんべんなく増やす」のではなく、「取りこぼしの出ている時間にだけ、厚く置く」が効きます。空いた時間は、むしろ薄くしてかまいません。
混む時間に厚く張る判断は、請求書の来ない費用——逃げた売上——を、ちゃんと反対の皿にのせられるかどうかで決まります。入口は、見えない費用を、見える費用と同じ天秤に並べることです。