構造の人 LabLab

Demand in Structure · Field Note 14

人を減らして浮くお金より、逃げる売上のほうが大きい

混む時間に人を一人減らすと、人件費は浮きます。けれど、さばけずに帰った客で、その何倍もの売上を失います。人件費は請求書が来るから見えて、逃げた売上は請求書が来ないから見えない。両方を天秤にのせると、ちょうどよい人数が見えてきます。

構造の人 Lab / 読了の目安 6分 / 触れる実演つき

浮いた人件費は見える。逃げた売上は、見えない

混む時間に、人を一人減らすとします。浮く人件費は、はっきりした金額です。月末には給与明細や請求書になって、目に見えます。だから、節約した手応えがあります。

いっぽうで、混みすぎて待たされた客は、何も言わずに店を出ます。行列を見て、入らずに引き返します。その客が落とすはずだった売上は、どこにも記録されません。請求書も来ません。だから、見えません。

こうして、見える人件費を浮かせて、見えない売上を失う——ということが、混む時間に静かに起きます。数えられる金額だけで決めると、答えはいつも「減らすほど身軽」に傾きます。逃げた売上が、天秤の片側に載っていないからです。

触れる:人件費と、逃げた売上を、天秤にのせる

ある店の、混む一時間です。来たい客は40人。店員一人が一時間に10人をさばけて、さばけなかった客は待ち切れず帰る(=逃げた売上)とします。客一人の儲け(粗利)は600円、店員一人は一時間1,500円。

人数を動かすと、天秤の左に「人を減らして浮く人件費」、右に「逃げた売上」が載ります。減らすほど左は軽く浮きますが、右の見えない皿は、その何倍も重くなります。両方が釣り合う人数を、探してみてください。

混む一時間に、人を何人置くか(架空例)

来たい客40人。店員一人が一時間に10人さばけ、さばけない客は帰ります(=逃げた売上)。客一人の儲け600円、店員一人1,500円/時。人数を動かすと、浮く人件費と逃げた売上が、天秤で釣り合っていきます。

人を減らして浮く人件費 ¥3,000 請求書が来る=見える
逃げた売上(機会損失) ¥12,000 請求書が来ない=見えない

さばけた客 20/40人 ・ 逃げた客 20人 ・ この一時間の利益 ¥9,000

人数と、人件費・売上・利益(架空例・混む一時間)

来たい客40人。一人が一時間に10人さばける。客一人の儲け600円、店員一人1,500円/時。
混む時間の人数1人2人3人4人5人6人
さばけた客102030404040
売上(粗利)6,00012,00018,00024,00024,00024,000
人件費1,5003,0004,5006,0007,5009,000
逃げた売上18,00012,0006,000000
利益4,5009,00013,50018,00016,50015,000

人件費がいちばん小さいのは1人(1,500円)ですが、そのとき利益は最低(4,500円)です。逃げた売上が0になる4人で、利益は最大(18,000円)。人件費を最小にする人数と、利益を最大にする人数は、別ものです。

全員さばける4人までは、人を一人減らして浮く人件費の、ちょうど4倍の売上が逃げています。だから、両方を天秤にのせると、針が水平になるのは「これくらいでいい」と感じる人数より、一人か二人、多いところです。そこが、利益の頂点です。

なぜ、つい削りすぎるのか

理由は単純です。浮いた人件費には請求書が来て、逃げた売上には来ないからです。片方の皿だけを見て決めると、判断は「人を減らすほど身軽になる」へ静かに傾きます。浮かせた金額は手元に残り、去った客はどこにも残らないからです。

けれど、逃げた売上を反対の皿にのせた瞬間、答えは裏返ります。混む時間は、人件費がかさむ時間であると同時に、その人件費を上回る売上が立つ時間でもある——そう見えてくるからです。見えない費用を一つ加えるだけで、「削る」と「足す」のどちらが得かが、入れ替わります。

混む時間の人手は、費用ではなく投資

空いている時間の一人は、たしかに費用です。やることが少ないのに、賃金だけがかかります。けれど、混む時間の一人は違います。去りかけた客を引き止めて、消えるはずだった売上を立てる——取りこぼしを止める投資です。

同じ一人でも、置く時間で意味がまるで変わります。だから「いつも一人足りない気がするから、まんべんなく増やす」のではなく、「取りこぼしの出ている時間にだけ、厚く置く」が効きます。空いた時間は、むしろ薄くしてかまいません。

混む時間に厚く張る判断は、請求書の来ない費用——逃げた売上——を、ちゃんと反対の皿にのせられるかどうかで決まります。入口は、見えない費用を、見える費用と同じ天秤に並べることです。