The quiet squeeze
在庫はあるのに、月末になると手元が苦しい
倉庫を見れば、商品はちゃんと積まれています。売る物がないわけではありません。それなのに、月末に支払いを並べてみると、なぜか手元の現金が足りない感じがついてまわります。卸でも、小売でも、製造でも、在庫を持つ現場ならどこにでもある感覚ではないでしょうか。
その手前には、たいてい一つの判断があります。欠品して「在庫切れです」と客に言うのが怖い。せっかくの注文を逃したくない。だから、迷ったら多めに頼んでおく。安心を取りにいく、ごく自然な選び方です。
引っかかるのは、その「多め」が、売れるまで倉庫から動かないお金になっている、というところです。棚に積まれている間は、それが現金だったとは気づきにくいものです。欠品の怖さが在庫を静かに厚くしていく——まずは、その前提だけをそっと置いておきます。
Two faces of stock
在庫には、二つの顔がある
在庫には、二つの顔があります。一つは「商品」の顔。注文が来れば棚から出して、客に渡せる頼もしい備えです。もう一つは「現金」の顔。棚に積まれた箱は、仕入れに払ったお金がそのままの姿で待っている状態——まだ売れていない現金そのものです。
ふだん見えているのは商品の顔のほうばかりで、もう一つの顔は箱の奥に隠れています。だから一文で言い切ってしまうと、見え方が変わります。
要するに、欠品を避けるために、現金を倉庫で眠らせている。
では、いくつ持てばいいのか。目安はそれほど難しくありません。〈1日に売れる数〉に〈入荷までの日数〉を掛けると、頼んでから届くまでに売れていく分が出ます。これだけだと、入荷がほんの少し遅れたり、思ったより売れた日があると、すぐ底をついてしまいます。そこで、もう少しだけ余裕として持っておくぶん——安全在庫——を足しておきます。
この余裕の厚みが、ちょうどシーソーになっています。厚くするほど欠品は遠ざかって安心が増えます。けれど同じだけ、倉庫で眠る現金も増えていきます。どちらか片方だけを良くする厚みは無くて、片方を動かせば必ず反対側が動きます。その傾きを、次の実演でそのまま手で動かしてみます。
Touch the seesaw
触れる:在庫と現金のシーソー
3本のスライダーを動かすと、発注の目安と、その在庫が縛っている現金が同時に変わります。とくに「安全在庫の厚み」を上げると、眠っている現金の棒が赤く膨らみ、欠品リスクのゲージが薄く下がります。逆に「入荷までの日数」を延ばすと、待つあいだのブレが積み上がって、同じ厚みでもリスクは上向きます。その動きを、数字と色と棒の三つで同時に見てみます。
在庫の目安シミュレーション
仕入れは 1個あたり 800円 と置いた架空例です。スライダーを動かすと、下の数字と棒がその場で一緒に動きます。
商品の山と
眠っている現金は、同じ大きさを「個数」と「円」で言い直したものです。棚の山が、そのまま固まったお金の量になります。
安全在庫を厚くすると、赤い棒の色が濃くなります。眠っている現金が重くなっていく合図です。同時にいちばん下の欠品リスクは薄く下がります。片方を安心に振ると、もう片方の現金が必ず反対に動きます。
| 安全在庫の厚み | 発注の目安 | 眠っている現金 | 欠品リスクの向き |
|---|---|---|---|
| 薄め(2日分の余裕) | 90 個 | 72,000 円 | 高めに残る |
| 標準(5日分の余裕) | 120 個 | 96,000 円 | 中くらい |
| 厚め(9日分の余裕) | 160 個 | 128,000 円 | 低く抑えられる |
余裕を厚くするほど、発注の数も眠っている現金も増え、そのぶん欠品リスクは下がります。三つの列が同じ向きに動いているのが、このシーソーの形です。なお、この表は入荷まで7日で固定した場合で、日数がもっと延びれば同じ厚みでもリスクは上がります。
A second face
「何個」だけでなく「いくら眠るか」で見る
在庫を「足りるか/足りないか」だけで見ているうちは、商品の顔しか映りません。安心という一つの軸の上で、厚いほど良いように思えてしまいます。
けれど発注を、「何個頼むか」だけでなく「いくら倉庫で眠らせるか」でも見ると、同じ棚が少し違って見えてきます。厚みのスライダーを動かしたときに反対側で膨らんだ赤——あれが、ふだん箱の奥に隠れているもう一つの顔です。足す手前で、その重さもいっしょに眺めてみると、同じ棚から見えるものが変わってきます。