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Business in Structure · Field Note 12

「在庫はあるのに、お金が残らない」— 倉庫で眠る現金を見つける

棚にはちゃんと商品がある。それなのに月末になると、手元の現金がなぜか苦しい。欠品して客を逃すのが怖いから、つい多めに発注する——もっともな判断に見えるその一手が、どこで現金を固めているのか。スライダーを動かして、倉庫で眠っているお金を見つけてみます。

構造の人 Lab / 読了の目安 6分 / 触れる実演つき

The quiet squeeze

在庫はあるのに、月末になると手元が苦しい

倉庫を見れば、商品はちゃんと積まれています。売る物がないわけではありません。それなのに、月末に支払いを並べてみると、なぜか手元の現金が足りない感じがついてまわります。卸でも、小売でも、製造でも、在庫を持つ現場ならどこにでもある感覚ではないでしょうか。

その手前には、たいてい一つの判断があります。欠品して「在庫切れです」と客に言うのが怖い。せっかくの注文を逃したくない。だから、迷ったら多めに頼んでおく。安心を取りにいく、ごく自然な選び方です。

引っかかるのは、その「多め」が、売れるまで倉庫から動かないお金になっている、というところです。棚に積まれている間は、それが現金だったとは気づきにくいものです。欠品の怖さが在庫を静かに厚くしていく——まずは、その前提だけをそっと置いておきます。

Two faces of stock

在庫には、二つの顔がある

倉庫の棚にいくつもの箱が積み上げられ、その一つひとつに硬貨の影がそっと重なって、動かないまま眠っている様子
棚の箱は、まだ眠っているお金。

在庫には、二つの顔があります。一つは「商品」の顔。注文が来れば棚から出して、客に渡せる頼もしい備えです。もう一つは「現金」の顔。棚に積まれた箱は、仕入れに払ったお金がそのままの姿で待っている状態——まだ売れていない現金そのものです。

ふだん見えているのは商品の顔のほうばかりで、もう一つの顔は箱の奥に隠れています。だから一文で言い切ってしまうと、見え方が変わります。

要するに、欠品を避けるために、現金を倉庫で眠らせている。

では、いくつ持てばいいのか。目安はそれほど難しくありません。〈1日に売れる数〉に〈入荷までの日数〉を掛けると、頼んでから届くまでに売れていく分が出ます。これだけだと、入荷がほんの少し遅れたり、思ったより売れた日があると、すぐ底をついてしまいます。そこで、もう少しだけ余裕として持っておくぶん——安全在庫——を足しておきます。

この余裕の厚みが、ちょうどシーソーになっています。厚くするほど欠品は遠ざかって安心が増えます。けれど同じだけ、倉庫で眠る現金も増えていきます。どちらか片方だけを良くする厚みは無くて、片方を動かせば必ず反対側が動きます。その傾きを、次の実演でそのまま手で動かしてみます。

Touch the seesaw

触れる:在庫と現金のシーソー

3本のスライダーを動かすと、発注の目安と、その在庫が縛っている現金が同時に変わります。とくに「安全在庫の厚み」を上げると、眠っている現金の棒が赤く膨らみ、欠品リスクのゲージが薄く下がります。逆に「入荷までの日数」を延ばすと、待つあいだのブレが積み上がって、同じ厚みでもリスクは上向きます。その動きを、数字と色と棒の三つで同時に見てみます。

在庫の目安シミュレーション

仕入れは 1個あたり 800円 と置いた架空例です。スライダーを動かすと、下の数字と棒がその場で一緒に動きます。

120 個 発注の目安(この数で頼む)
96,000 円 この在庫が縛っている現金

商品の山と 眠っている現金は、同じ大きさを「個数」と「円」で言い直したものです。棚の山が、そのまま固まったお金の量になります。
安全在庫を厚くすると、赤い棒の色が濃くなります。眠っている現金が重くなっていく合図です。同時にいちばん下の欠品リスクは薄く下がります。片方を安心に振ると、もう片方の現金が必ず反対に動きます。

1日に10個売れ・入荷まで7日・1個800円とした場合の、余裕の厚みごとの目安です。
安全在庫の厚み発注の目安眠っている現金欠品リスクの向き
薄め(2日分の余裕)90 個72,000 円高めに残る
標準(5日分の余裕)120 個96,000 円中くらい
厚め(9日分の余裕)160 個128,000 円低く抑えられる

余裕を厚くするほど、発注の数も眠っている現金も増え、そのぶん欠品リスクは下がります。三つの列が同じ向きに動いているのが、このシーソーの形です。なお、この表は入荷まで7日で固定した場合で、日数がもっと延びれば同じ厚みでもリスクは上がります。

A second face

「何個」だけでなく「いくら眠るか」で見る

在庫を「足りるか/足りないか」だけで見ているうちは、商品の顔しか映りません。安心という一つの軸の上で、厚いほど良いように思えてしまいます。

けれど発注を、「何個頼むか」だけでなく「いくら倉庫で眠らせるか」でも見ると、同じ棚が少し違って見えてきます。厚みのスライダーを動かしたときに反対側で膨らんだ赤——あれが、ふだん箱の奥に隠れているもう一つの顔です。足す手前で、その重さもいっしょに眺めてみると、同じ棚から見えるものが変わってきます。