構造の人 LabLab

Structure at Work · Field Note 08

見えないコストを触って測る

現金は口座の残高として目に入りますが、時間には残高がありません。1回はほんの数分の作業でも、人数と頻度を掛け合わせると、1年でまとまった時間とお金に変わっています。下の電卓に職場の作業を入れると、その大きさがその場で円に置き換わります。

構造の人 Lab / 読了の目安 6分 / 触れる実演つき

The Invisible Ledger

なぜ見えないコストは放置されるのか

机で事務作業を続ける人物。机上の砂時計から砂がこぼれ、床に水のように溜まって溶け広がっているが、本人は気づいていない様子。
小さな作業の裏で、時間は静かに溶けている。

お金を使えば、口座の残高がそのぶん減ります。数字が動くので、使ったことに気づけます。けれど時間には残高がありません。会議の準備に30分かけても、どこかの数字が減るわけではないので、使った実感が後に残らないままになります。

1回あたりが小さく見える作業ほど、見過ごされがちです。たとえば1回10分の作業でも、月に20回、3人で続けていれば、(10÷60)×20×12×3 で年間120時間になります。日数にするとおよそ15日分です。1回の10分が軽いぶん、積み上がった合計の大きさが感覚に届きません。

そしてコスト感覚は、絶対値よりも相対値で動きやすいものです。「10分」とだけ言われても判断のしようがありませんが、「この作業は年間でおよそ100万円ぶん」と円に換算されると、はじめて高い・低いの物差しがあてられます。見えないコストが放置されるのは、意志が弱いからではなく、測るための単位がまだ与えられていないからです。

The Calculator

触れる電卓で、その場で円に置き換える

職場でくり返している作業を一つ思い浮かべて、1回あたりの分・月の頻度・関わる人数・おおよその時給を入れると、年間の時間とコストがその場で出ます。行はいくつでも足せます。数字を変えると、結果も、コストの棒の長さも一緒に動きます。どの作業が一番溶けているかが、棒の長さで一目で立ち上がります。

3つの作業で年間に溶ける時間 564 時間
年間コスト合計 1,572,000 円

どの作業が一番溶けているか(タップで切替)

※ 作業名・数値はすべて説明用の架空例です。ボタンとつまみを動かすと、結果がその場で変わります。

作業名1回(分)月頻度人数時給(円)1回コスト(円)年間時間(h)年間コスト(円)
週次報告書作成30463,0009,000144432,000
定例会議準備45453,00011,250180540,000
フォーマット変換152042,5002,500240600,000
合計5641,572,000

※ 1回コスト =(1回の分 ÷ 60)× 人数 × 時給。年間時間 =(1回の分 ÷ 60)× 月頻度 × 12ヶ月 × 人数。年間コスト = 年間時間 × 時給。数値・社名はすべて架空例です。

After Counting

数えたあとの問い

年間コストが大きいとわかっても、それだけでは何も変わりません。金額の大きい作業が、いつも一番先に手をつけるべき作業とは限らないからです。

手をつける順番は、二つの軸で見ると整理しやすくなります。一つは削減インパクト——年間コストに、現実的に減らせそうな割合を掛けたものです。もう一つは実現難度——関係者の合意にかかる手間や、仕組みをどこまで作り直すかの深さです。コストが大きくても難度が高い作業は後回しにし、コストはそこそこでも難度が低い作業から始めると、最初の一歩が軽くなります。

このとき電卓が出した数字は、「この作業は年間でおよそ○○円ぶん」という共通の言葉になります。「なんとなく面倒」という感覚のままでは話が感情論になりがちですが、同じ円という単位に乗せると、どれを先に削るかの相談が、好き嫌いから離れて進みやすくなります。

Where It Starts

測れた数字は、出発点

電卓に出た金額は、ゴールではなく出発点です。年間でこれだけ溶けている、と見えたところからしか、どこを減らすかの相談は始まりません。

どの作業から、どんなやり方で手を入れるか——その選択は、数字が見えた後でゆっくり決めても遅くはありません。やり方を先に決めてしまうと、本当に大きいコストを外したまま走り出すこともあります。まず見えること。手段は、そのあとで構いません。

数えてみると、どれが効くのかが手元で立ち上がってきます。埋まった一行は、見えないコストを残高に変えていく、最初の記録になります。