Pricing in Structure · Field Note 16
その値引き、ほんとうの代償は — 利益で見る価格の話
セールをすると売上は気持ちよく伸びます。けれど月末の利益は思ったほど増えず、ときにはむしろ減る。その違和感は、値引きが「どこから引かれているか」が見えにくいところから来ています。
The pleasant rise
売れたのに、増えない
値引きやセールをすると、売上の数字は気持ちよく伸びていきます。レジが何度も鳴って、棚が空いていくのは、それだけで手応えのある光景です。たくさん売れた、という実感も確かに残ります。
けれど月末に利益を見ると、思ったほど増えていないことがあります。ときには、あれだけ売れたはずなのに、前の月より減っていることさえあります。「売れたのに、どうして」という小さな違和感が、静かに残ります。
この違和感は、たいてい値引きの分が「どこから引かれているのか」が見えにくいところから来ています。売値を少し下げただけのつもりでも、その数字は売上の総額から引かれるのではなく、別の場所から差し引かれています。
What gets cut
値引きは、利益から引かれる
値引きの怖さは、利益率の薄さと掛け算で効いてきます。商品の売値の中身を分けてみると、その大半は仕入れや材料といった原価で、手元に残る利益はそのうちの薄い一層にすぎません。
値引きをしたとき、削られるのは原価の側ではありません。原価は値引きに付き合ってくれないので、減る分はまるごと、いちばん薄いこの利益の層から出ていきます。だからこう言い切れます。
要するに、値引きは売上ではなく利益そのものを削ります。だから元の利益を取り戻すには、想像よりずっと多く売らなければなりません。
利益率が薄い商品ほど、この削られ方は深くなります。たとえば利益率が20%の商品を5%引くと、減るのは売値の5%でも、利益の側から見れば四分の一が一度に消える計算です。「5%引き」という軽い言葉の裏で、利益はそれよりずっと大きく動いています。
Feel the seesaw
触れる:値引きの損益シーソー
では、その値引きで元の利益を取り戻すには、いまより何%多く売ればよいのか。頭の中で追うより、動かして見たほうが早いはずです。下の二つのスライダーで、元の利益率と、値引き率を動かせます。
元の利益を取り戻すには
いまより 33% 多く
売る必要があります
動きのある実演が使えないときのために、代表的な組み合わせを表にしておきます。数字は「元の利益を取り戻すのに、いまより何%多く売る必要があるか」です。
| 値引き率\利益率 | 利益率 10% | 利益率 20% | 利益率 30% |
|---|---|---|---|
| 5% 引き | +100% | +33% | +20% |
| 10% 引き | 取り戻せない | +100% | +50% |
| 20% 引き | 取り戻せない | 取り戻せない | +200% |
値引き率を少しずつ上げてみると、必要な追加販売数はある所から急に立ち上がります。利益率を薄いほうへ寄せるほど、その立ち上がりは手前に来ます。必要な販売数が「いまの倍」を超える帯に入ると色が変わり、そこから先がその値引きの割に合う・合わないの分かれ目です。
The translation
「何%引くか」を「何個多く売るか」に
値引きを「売上を増やす手」としてだけ見ていると、その裏で利益がどれだけ削れているかは見えないままです。数字が伸びる側だけが目に入って、薄い層が削られていく側は静かに進みます。
「何%引くか」を「元を取るのに何個多く売るか」に翻訳すると、その値引きが割に合うのかどうかが、決める前に分かります。同じ5%でも、利益率しだいで意味はまるで変わります。割引の大きさそのものより、その後ろにある利益の薄さのほうが、答えを先に決めています。